
2014.1.1、神戸
高取山 山頂。
『孤高の人』
新田次郎第一章 山麓
雪がちらついているのに意外なほど遠くがよく見えた。厚い雪雲の下面と神戸市との間の空気層の間隙の先に淡路島が見えた。雪雲の底の平面は、鉛色をした海と平行したまま遠のいて行って、水平線との間に、くっきりと一条、青空を残して終っていた。そこには春のような輝きがあった。
神戸市の背後の山稜を覆った雪雲の暗さから想像すると、間もなくはげしい風を伴った、嵐にでもなりそうな光景であった。神戸としては珍しいことである。
若者は、その雲の底を生れて初めて見る怪奇な現象であるかのように見詰めていたが、首が痛くなると、眼を足もとの神戸市街とそのつづきの海にやった。神戸に生れて、神戸に育っていながら、このたった、三二〇メートルの高取山の頂上に、こんなすばらしい景観が展開されることをこの瞬間に発見したような気がした。
〜中略〜
「加藤文太郎というと?」若者はやや首をかしげて聞いた。
「不世出の登山家だ。日本の登山家を山にたとえたとすれば富士山に相当するのが加藤文太郎だと思えばいい」
老人の声は意外なほど若かった。
「さしつかえがなかったら、その人のことを話して下さいませんか、……ここは寒いから、どうです、すぐ下の茶屋で……」
「いや寒くはない。それに風もない。加藤文太郎のことを話すには、此処がもっともふさわしいところだ、此処は加藤文太郎が最も愛していた場所のひとつなんだ」

僕の好きな小説ベスト5に入る、新田次郎の「
孤高の人」は、ここ高取山、山頂から始まる。
(実在の登山家「
加藤文太郎」の生涯を題材とした小説)
写真はボロボロになった昭和48年2刷版

子供の頃、駆け巡るようにして遊んだ高取山。
山頂にある高取神社。
神戸の初詣神社といえば、実家近所の生田神社、湊川神社、長田神社などが人出が多く有名ですが
自分としては汗をかきかき登り神戸市街を眼下に俯瞰するこの神社にお参りするのが一番好きです。
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